2015年4月9日木曜日

2008年『銚電スリーナイン』は、はじめてのローカル鉄道演劇!




2008年6月 『銚電スリーナイン』ダイジェスト映像



関東最東端の地、銚子へ】

シアターキューブリックの活動拠点、東京からJRに乗ってさらに東。
千葉県の東端までいくとJR銚子駅があります。

JRのホームの先にちょこんとある入口。
可愛らしい煉瓦風の三角屋根が銚子電鉄の目印です。
銚子駅を始発に、太平洋へ向って6.4km。
走行時間は片道19分。



銚子電鉄は銚子市街と醤油工場を横目に、住宅街とキャベツ畑の間を突っ切って行きます。
そして匂いは、独特の醤油と土の香りからどんどん潮の香りへと変貌。
目の前にさぁっと現れる太平洋!
風を受け、人々の暮らしを乗せながら銚子電鉄はトコトコ走る。

終着駅の外川は銚子の漁業発祥の漁港のまち。
おいしいお魚の食べられるお店や名物のプリンのような伊達巻、
歴史ある坂道、強い潮風。
あたたかな人のぬくもりがここにはあります。


【「鉄道演劇」の幕開けまで



2008年。シアターキューブリックは、銚子電鉄の運行ダイヤを間借りし、
『銚電スリーナイン』という演劇公演を行いました。

走る電鉄内を舞台空間にし、動く背景!薫る潮風!唸るエンジン!
演出効果のすべて本物であり、生という、なんとも贅沢な演劇公演です。

そもそも、動く鉄道内で演劇公演をする!ということ自体、演劇界でも稀です。
いったいどうやって企画を進めたらよいのか頭を悩ませる毎日。

実現の際にはたくさんの人の力をお借りしました。

銚子電気鉄道株式会社は過去、廃線の危機を自社のぬれ煎餅の購入を広く呼び掛けて支援を募り、その危機を乗り越えたという逸話を持つ会社。
その熱意と行動力に惹かれ、ぜひ銚子電鉄で銚電とその町のよさを演劇にしたい、と思ったのが始まり。
その思いを熱く語りに伺い、銚子電鉄さんは快く引き受けて下さいました。

ローカル鉄道演劇は走行中車内の中で演劇をすることだけが特色ではありません。
終着駅での「まちあるき」も重要な作品の一部です。
「ガイドブックにはないまちあるきをいかに楽しんでもらうか?」
といったときに地元の方に大変お力添えをいただきました。

安全な公演車両の運行にあたって、
鉄道会社のみなさまと私たちだけでは足りない部分を
東京からの演劇人にボランティアサポートしていただきました。


劇場が特殊なので稽古も特殊。
椅子を電鉄車内に見立てて並べ、走行DVDに合わせての稽古です。
だた路線を20分走っているなかで芝居をするだけではありません。
通常の運行通りに駅に停車もすれば扉も空きます。
タイムを測りながら、運行ダイヤと照らし合わせ芝居を組み立てて行きます。

東京の劇場でしか芝居をしたことがなかったのに、
東京から離れた銚子でしかも鉄道での公演。
不安がなかったわけではないですが、チケットは完売!
9月に追加公演をすることも決定しました。

まるで初舞台のような緊張につつまれ、
こうして、ローカル鉄道演劇公演の本番が始まりました。



【『銚電スリーナイン』、発車。】


『銚電スリーナイン』

作・演出 緑川憲仁

出演:片山耀将・市場法子・漢那悦子・伊藤十楽成・千田剛士
共催:銚子電気鉄道株式会社
後援:銚子市・社団法人銚子市観光協会

2008年6月21日(土)~7月19日(土) 毎週土曜日のみ
追加公演 9月6日(土)・7日(日) 


ある日突然、幼なじみから届いた封筒。
ほのかな潮風の香りと数枚の写真だけ…。


JR銚子駅から銚子電鉄ホームまでは地続き。
そこには『銚電スリーナイン』が停まっています。
車掌に伴われ、特別列車『銚電スリーナイン』へと案内されます。

車内は鉄の香りと木のぬくもりが漂うレトロな空間。
席に着くと車掌から、この列車に乗車するには特別切符が必要であると告げられます。

間もなく出発。

そこへ、ひとりの男が乗り込んできます。
少し落ち着きが無い男。
「銚電スリーナイン」の特別切符を持ってはいない様子。
その手には1枚の写真。


車掌が近づき、切符を販売。と、ともに銚子電鉄名物「ぬれ煎餅」を薦めます。
男はそれを断り、車内を眺め回します。

「ください!ぬれ煎餅、2つ!」
その言葉とともに女の子が割り込んできます。

車掌はぬれ煎餅を渡し、二人は一緒にぬれ煎餅をかじる。

「銚電スリーナイン」はゴトリ…と音を立て、少し揺れながら出発していきます。
走りだし、だんだん遠ざかる銚子駅。

男と女の子が、会話を始め・・・・・・





「銚電スリーナイン」は、久しぶりに故郷・銚子を訪れた男の過去をたどる物語。
上京し、忙しく生活するうちに多くの事を忘れていた。
大事にしていたあの思い出も。
だが、このまちを眺め、懐かしい人に会ううちに、
彼に再びあの頃の物語が舞い戻ってくる。

乗客は、いつから始まったのか、気づいた頃にはすでに物語の中に迷い込み、
銚子駅から終点・外川駅までの19分間、登場人物とともに、物語の中を旅をします。
ただの銚子電鉄の車窓だった風景が、
「銚電スリーナイン」という世界の不思議な景色へと変わるのです。



【まちをあるく。】

終点・外川につくと、登場人物たちが想いとともにまちへ飛び出します。
「銚電スリーナイン」の乗客たちはこれから2時間、思い思い外川のまちを歩きました。




外川は海風にさらされた有数の漁港町。
静かなまちだが、海に負けない人たちが熱くたくましく生きています。




海へとまっすぐに伸びた坂。
まるで迷路のような路地。
潮風対策の黒い塀。
駄菓子屋などの小さな商店。etc…





登場人物たちが生きた場所がそこにはあります。
もしかしたらかつて過ごした自分自身の故郷と重ねあわせてしまうかもしれません。








まちあるきを終え、今度は外川から銚子へと向かいます。
再び「銚電スリーナイン」へ乗り込み、物語の終結へ向かうため、出発を待ちます。




【そして、物語もラストへ。

乗客たちと同じように、外川で数時間を過ごした登場人物たち。
物語もどんどんクライマックスへと向かい、ラストシーンへ。




久しぶりに故郷へ訪れた一人の男。
再び東京へ帰るときの顔はまったく違ったものになっていました。









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『特別インタビュー:Gest:伊藤十楽成』
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千田:こんにちわ!

伊藤:こんにちわーーーー!伊藤マンショでーーーーす!

千田:誰がそのネタわかるんだよ

伊藤:歴史の偉人だよね。

千田:そういうことではなく!?




…はい!そんなわけで伊藤十楽成くんです。
伊藤くんはシアターキューブリック旗揚げメンバーであり、
鉄道部メンバーだよね。自身、もともと鉄道好きなの?


伊藤:
元々は旅が好きでして!この公演をきっかけに鉄道にもどっぷりはまりましたね〜
役どころも「撮り鉄」だったし。床の香りとかかいでました。


千田:かいでましたね〜



【当時のシアターキューブリック】

千田:
ところで『銚電スリーナイン』といえば2008年。当時のシアターキューブリックといえば、ずっと劇場公演をやっていて、初めて「走る電鉄でお芝居をする!」ってどうでした?


伊藤:
う〜ん。正直「こんなことできるのか?」という一抹の不安があった。
もちろん出来るものなら面白そう。でも冷静な自分も居て、実際に1ステージやってみるまで、不安がないってことはもちろん無くて、実際、本番あけて1ステージ、1ステージやっていくごとに、「これは役者として取り組んでいくべきテーマがまた1つ見つかった」という。
それくらいこの「鉄道演劇」というものが役者人生の中でも、まぁ、かっこういい言い方をするとコンテンツ。コンテンツ??これ、どうかね??適当な言葉が思い浮かばないけど、、、


千田:つまり、どういうこと?


伊藤:
鉄道という舞台は、役者同様、息をしているし、その上、目の前の天気や景色といった自然ともつきあっていかなければいけない。劇場の舞台とはまったく違うことで、これこそ、「芝居をしてるのか?」語弊があるかもしれないけど、「サバイバルをしているのか?」という。


千田:
たしかに、それまでの芝居観をいくつも覆さなきゃやれなかったね。やれるのか?じゃなくて、やらなきゃ!という状況に置かれてた。





伊藤:
自分の価値観は大切にしたいけど、固定概念はクソ食らえ!だなという。
それこそ、これまでやってきた価値観なんて、まったく役に立たないんじゃないかっていう中で、それでもそういう考えをかなぐり捨てながら、進んでいってみると、いつしか自分とシンクロするものが見つかる瞬間がある。それはやっぱり日本のどこにでも在る空や、自然や、人の作った建物や橋などであったり、電車なんてまさしく多くの日本人が生活の中で触れてきたものだから、やる方も観る方も、必ず接点はあるっていう事なのかな?と。


千田:
そうそう。始まってみたら懸念してたよりはまっていけた。「こんなもんか」というのじゃなくて、「きっと合ってる」というような。鉄道の事とかは特にだけど、わからない事がまだまだたくさんあって、そういう部分を銚子電鉄の方々に助けてもらっていた感覚。ありがたかった。
伊藤くんは、始まる前に予想していたことと、実際、始まってみて全然違ったことはある?


伊藤:
きらびやかな劇場のお芝居と違って、シンプル過ぎたり、退屈に思われたりしないかな?という懸念はあった。やってみたら、遠方から来てくれた方は芝居をみながら電車や車窓の景色を楽しんでくれるし、地元の方でさえも、いつもとはまた違った景色に染まった景色に思ってもらえたようで、つまりそれだけ情報として存在しているんだなと。そしてさらに、ひとりひとりの想像力も加わるんだなと。お客さんのね。
だからもっと、見る人の想像力を信じていいだなと今では思ってます。


千田:
そうだよね。演劇の良さって、お客さんと一緒の空間にいる事だと僕は思うんだけど、まさにこの「鉄道演劇」ってそういう部分が多い。本番の最中って、稽古では得られない事だらけだったよ。




【銚子の好きなところは?】

伊藤:
やはり、海産物がおいしい!というのが個人的にもポイント高いです(笑)どこで食べても美味しいので、もう街角のちょっと小さめのお店などをどんどん開拓していただきたいですね。あと、外川の特徴的な漁港の街並!一方で、銚子駅に近い市の中心地でも、ちょっとした裏路地などが多くて、そこを散策するのがとても楽しいです。あと、どこよりも早く初日の出が拝めるという一芸も持っている。


千田:『銚電スリーナイン』の魅力ってズバリ?!


伊藤:
やってる我々も手探りで作り上げていったし、本番があけてからもこれほど最後まで手探りだったのは過去にないくらいだったと思うけど、確実に今のキューブリックの礎になった作品だなと思っています。



結果として1つの公演にすることが出来たのだけど、自分たちの力だけではなく、銚子電鉄や地元の方々。今でもその御縁が続いている。
変な話、我々がまちと結びついて、まわりの皆さんのおかげて芝居をやらせて頂いているんだっていう、それが内側からも外側からも見えやすい。この公演を通じて、我々の活動を説明するのにもとてもわかりやすいと思うし、自分たちが活動する意義も一番確認しやすい。
このあたりから本格的にシアターキューブリックのテーマである「まち・れきし・あそび」が始まったタイミングだなぁ。


千田:そうね〜、シアターキューブリックの方向性が明確に定まったような感じがしたよね。


伊藤:
あーーーーー、あと、銚子の魅力おもいだした
沿線でヤマサ醤油の工場があるから、醤油臭いんですねーー他に言いようないからねーーー!でもね、二回目になると、あの匂いかいで「あ、銚子に来たんだな」って。あれ、かがないと。
あと、木々の間のすれすれのところを抜けていくのが自然のトンネルのようだった。
あとはまちあるき!ヨカッタですね〜。
往路・復路の間でやっていたまちあるき。ここで外川のまちの空気に触れていただくことで、復路のストーリーをより楽しんで頂ける。


千田:さすが伊藤マンショ!

伊藤:伊藤マンショなんの人だっけ(笑)

千田:知らんのかい!!!(伊藤マンショは天正遣欧使節の正使の一人です!


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2015年春某日  


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